BRAND STORY vol.07 NANGA

ナンガ本社工場に潜入

80年以上前に滋賀県米原市で創業

01
モノ作りの現場

“滋賀県の創業の地にナンガ社を訪れた”

“縫製部分からの羽毛の抜けを防ぐため、定められた運針で縫い合わせます。糸の番手もアパレル製品よりも太く、細い針穴に太い糸で縫うことで、針穴をしっかり塞ぐイメージです。正確性が求められる細かい作業のため、1本の寝袋を縫製するのにシングルキルト構造で2時間半、構造が複雑なボックスキルトでは20工程以上に及んで4時間ほどかかります。したがって、熟練の職人さんでも1日2本から2.5本作るので精一杯です。”

嶌田直満(株式会社ナンガ生産部生産管理課)

ナンガ社が創業したのは今からおよそ80年前。近江真綿を使った布団作りで栄えた滋賀県米原市で創業しました。地域の産業である布団加工の工場「横田縫製」が前身です。終戦から高度経済成長期を経て、80年代に入って布団の加工業が中国などの海外に流出していきます。その頃から横田縫製は当時のアウトドアブームを背景に、寝袋の製造を請け負うようになります。そうして1990年代中盤には会社全体で寝袋製造に舵を切り、1995年に「NANGA」ブランドがスタートしました。

社名でありブランド名である「NANGA」は、カラコルムヒマラヤの高峰、標高8,126mの「ナンガ・パルバット」に由来しています。「魔の山」「人喰い山」とも呼ばれ、14座あるヒマラヤ8,000m峰のなかでも、もっとも登頂が困難な山として知られています。それにちなんで、「困難だからこそ」というチャレンジ精神あふれる社風を目指した創業者の思いが込められています。

その創業の地でもある滋賀県の本社工場を訪ねました。社屋正面には日本百名山の伊吹山が聳え、周囲はおだやかな田園地帯が広がっています。そのなかに、数年前に新築になったという「NANGA」のロゴを配したモダンな本社社屋が建っています。SABBATICALの寝袋もすべてこのナンガ本社工場で製造されています。生産部生産管理課の嶌田直満さんに社内を案内していただきました。

02
裁断

“Process 1「裁断」”

入口で靴を脱いでスリッパに履き替えると、まず案内されたのは工場1階の「裁断」工程でした。さまざまな生地の原反(ロール)を収めた棚と、中央には長さ10mもあろうかという延反(えんたん)台。上にはロールから引き出されたナイロン生地が何層にも重ねられ、コンピュータ制御の裁断機によって、次々に各パーツが切り出されていきます。

寝袋は1枚のパーツが2m近い長尺モノがあるため、裁断機のヘッドの動きは非常にスムーズかつダイナミック。重ねたナイロン生地がズレないように、台には無数の穴が開けられ、下から空気を吸引することで布地を固定しています。

台の上に生地を重ねるのは「延反=反物を延ばす」と呼ばれる工程で、薄いナイロン生地を20、30枚ほど重ね、まとめてカットします。そうして1回の裁断作業で、重ねた枚数分の寝袋のパネルが効率良く、正確に切り出されています。

当然、寝袋のパターン(型紙)はモデルごとにデータ化されており、裁断によってできるだけ残反(生地の余り)が出ないよう各パーツがパズルのようにレイアウトされています。そして、モニターパネルを操作するだけで裁断作業はほぼ自動化されています。

「この自動裁断機を1日フルに稼働させれば、寝袋なら700本分くらいは裁断できます。実際は色を組み合わせた製品もあるので、3色使う製品なら3回、生地を変えて裁断する必要があります。現在、生地は10種類ほどで、それぞれ5から10色ほどあるので、種類としては100枚くらい。それに加えて、別注のお客様から生地を支給される場合もあります」と嶌田さんは説明してくれます。

03
裁断

“Process 2「縫製」”

続いて2階に上がると縫製工程で、自動化された1階の「裁断」工程と違って、こちらはミシンを使った手作業がメイン。広いワンフロアにミシンを据え付けた縫製ラインが4つ。右手がサンプルを縫うラインで、奥にアパレルが2ライン、手前側の1列が寝袋用ラインです。手元が見やすいようあえて天井高を下げて蛍光灯の光がよく回るように設計された上に、窓からの採光も豊富で、室内は非常に明るい印象です。

縫製担当はおよそ50人。多くはベトナムからの実習生で、技術や経験によってリーダー登用の道があります。日本の永住権を持つエンジニアも採用しております。

NANGAの寝袋のなかでも、ダウン量の多いモデル(SABBATICALでは600、750、900)はボックスキルト構造を採用しています。表地と裏地を直接縫い合わせるシングルキルト構造とは違い、文字通り、ボックス型に縫製したバッフル内に詰めることで、ふわりとした羽毛のかさ高を維持し、片寄りを軽減することで部分的なヒートロスを防ぎます。

そのボックス構造を作るために、表地と裏地の間に決められた間隔でメッシュ生地のマチ(内壁)を縫い付けていきます。まずは裏地にすべてのメッシュを縫い付け、その後に一つひとつのメッシュ材と表地を縫うという、非常に手間のかかる工程です。

内部のマチ部分にメッシュ素材を使う理由は、隣り合うバッフル同士で通気を促すことで寝袋全体の保温力を均等に保ち、同時に重量も軽減するというメリットもあります。各バッフル内に入れるダウンは1g単位で計算され、ダウン量にしたがって約6〜12cmの間隔でバッフルが構成されます。

この縫製はすべて職人がミシンを動かす手作業で、オートメーション化できない工程です。寝袋の場合は縫い目からダウンが飛び出さないようミシンの運針(ステッチ)は非常に細かく、時間をかけて丁寧に縫っています。「そのため、寝袋を1本縫製するのに、シングルキルト構造では2時間半、構造が複雑なボックスキルトでは熟練の職人でも4時間ほどかかります」と嶌田さん。

ちなみに、ダウンジャケットのようなアパレル製品の場合は、パックと呼ばれる薄い生地に羽毛を閉じ込めてから、表地と裏地を縫います。ジャケットなどは可動部分が多いので、パックを挟まないと羽毛の抜けが多くなるそうです。寝袋の場合は、そこまでの可動域はないので、パックを使わず直接羽毛を入れているとのこと。

04
封入

“Process 3「封入」”

縫製フロアの奥には、羽毛を封入する個室が並んでいます。縫製を終えた寝袋は、ここで各バッフルごとに設定された羽毛を封入していきます。

「縫製を終えた寝袋は、数ヶ所、吹き込み口を開けています。そこからノズルを差し込み、メッシュの端に開けられた部分にぐいぐい差し込み、生地をたぐり寄せるイメージです。寝袋の構造によって入れ方も違いますが、まずはフード、次いでドラフトチューブ。ファスナーからの冷気を防ぐ部分ですね。身頃は足元からノズルを差し込んで、各部屋に羽毛を入れていきます。各部屋に封入する羽毛量は、グラム単位で決められています。これはノウハウですね」

モニターには各部屋ごとの羽毛量がグラム表示されており、オペレーターが封入を開始すると数字が減っていき、ゼロになった時点で完了。羽毛を入れた箱からパイプで羽毛を吸い出し、別のノズルから吹き込むイメージです。この封入機も寝袋を手がけた先代社長のアイデアで製造したもので、他社にはない設備とのこと。

「羽毛業界では自動機による封入も一般的ですが、自動機だと羽毛の入れ替えがたいへんなんです。ウチではフィルパワーの違うさまざまダウンを扱っていますから、たとえば、大きなタンクにDX羽毛を入れてしまうと、次のSTD羽毛やリサイクル羽毛に入れ替える作業がたいへんで、結局、その時間を考えると、熟練された技で手動のほうが効率がいい。慣れた職人さんなら、寝袋1本あたり約10分で羽毛を入れ終えることができます」

05
パッケージング

“Process 4「パッケージング」”

完成した寝袋は、クルマで10分ほどのロジスティックセンターに運ばれ、そこでパッケージングから発送作業に入ります。ここで活躍するのが「巻き機」と呼ばれるこれまたオリジナルの機材です。

ふんだんに羽毛が詰まった寝袋は、巻かれた状態で収納バッグに収まって店頭に並びます。では、収納バッグに収める作業はどうしているのでしょう。新品の寝袋をたたんだ経験のある方なら想像つくと思いますが、手作業でこれをこなすのはかなりたいへんな仕事になります。そこで巻き機の出番です。

原理はワイヤーを巻き取るウインチに近い機械で、寝袋の足元をセットし、片側を手で持ちながらスイッチを入れると、足元からロールして巻き取ってくれるという半自動機。仕掛けは実に簡単ですが、これがあるのとないのでは作業効率が大きく違うことは十分に想像できます。

06
品質への飽くなき追求

“NANGA本社工場見学を終えて”

寝袋というプロダクトは、高度に機械化された工場で生産されているイメージを抱いていました。だが、実際は熟練の職人のクラフトマンシップが光るモノづくりの現場でした。求められているのはスピードアップや生産効率ではなく、品質への飽くなき追求。熟練の職人でも、1日2.5本から3本しか作ることができないというのがその証です。

また、本社工場内全体が非常にクリーンな印象でした。その点を踏まえて、ナンガ本社工場としての強みを嶌田さんに訊きました。

「やはり、ファクトリーブランドとしてうたっていますので、工場内の整理整頓は徹底しています。自社工場としての強みといえば、まずはノウハウの蓄積です。単に暖かい寝袋を作るのなら羽毛量を増やせばいくらでもできます。しかし、そのぶん収納性が悪くなり、値段も非常に高いものになります。そのあたり、お客様が満足できる暖かさと収納サイズのバランスをどう取るか。そこは自社生産の経験とノウハウの蓄積が生きる部分だと思います。そして最も大事なのは、羽毛へのこだわりです。そこは河田フェザーさんの羽毛しか使わないという点で、そこが他社さんとの一番の違いではないでしょうか」

「河田フェザーさん」とは、高い品質で知られる国内屈指の羽毛サプライヤー。なぜ、NANGAは河田フェザーの羽毛にこだわるのか。その理由を探るために、次回は「vol.08」では河田フェザー株式会社の本社工場を訪ねます。


  • TEXT:CHIKARA TERAKURA
  • PHOTO:SHOTA KIKUCHI